ボトクンチェン集落の住宅再建後、パートナーであるインドネシア人建築家のエコ・プラウォトさんより次の支援先の提案がありました。ジャワ島中部、ジョグジャカルタ州の州都で同名のジョグジャカルタ市から約40km、グヌンキドル県内の山あいにあるナワンガン集落です。人口約130人のこの集落も2006年のジャワ島中部地震で被害を受けました。人的被害はなかったものの、全壊4軒、半壊11軒と、30世帯のうち半分が住宅に被害を受けました。もともとこの地域は震災以前から慢性的な水不足で高い水代が生計を圧迫しており、震災が経済的な困窮を助長していました。
高い水代の原因は、この集落に水道が通っていないことでした。この地域は、雨季と乾季が1年のほぼ半分ずつの長さとなっています。雨季には各戸の天水タンクに雨水を貯めて利用しますが、乾季には水売り業者から高い水を買わざるを得ませんでした。厳しいときには月収の半分ほどが水代に消える計算でした。
これを受け、CODEは住民がより安価な水を利用して生計を改善できるよう、水道を引くための支援を行いました。県の水道公社のタンクから集落まで約1kmの水道管を敷設、集落にはタンクを建設し、各戸へと支管もつなぎます。建設はすべて集落の人たち自身の手で行われました。ジャワ島の農村に根ざした相互扶助の精神「ゴトンロヨン」に基づく協働作業です。日頃から住民たちは農作業や道普請、家の改修、結婚式やお葬式、病人の世話といった多くの場面で協力して生活しているのです。
水道公社との必要な手続き、集落での「水組合」の設立、運営・利用方法の決定もすべて集落の人たちが行い、2008年4月、無事に完成しました。
この工事によって、乾季も安価でより安全な水が利用できるようになり、住民の暮らしの改善に役立ちました。さらに、これをまさに「呼び水」として、村の人たちは過疎化や貧困といった地域の問題に取り組み始めました。近年、農業では十分な現金収入が得られず、本当は村で暮らしたい若者もやむを得ず街へ出ていきます。日本の農村でも同様のことが起こっていますが、ナワンガンでは住民どうしが助け合いながら地域経済を自立させ、この問題を解決しようとしています。「水組合」では、浮いた水料金から各世帯が毎月少しずつ資金を積み立てていくことにしました。そしてこのお金で、生計を向上させるための融資、いわゆるマイクロクレジットを始めることにしたのです。最近ではこの融資を利用してヤギの飼育を行い、生計の足しにする人が増えています。
なお、2008年から毎年夏(2009年除く)、神戸学院大学「防災・社会貢献ユニット」浅野寿夫教授(CODE正会員)が授業の一環で、学生がナワンガン集落を訪問しています。学生さんは民家に宿泊して聞き取りや交流を行い、ナワンガンの人たちは「遠く日本から、ジョグジャカルタ郊外のこの村まで来てくれることが私たちの自信になる」と、互いに学び刺激しあっていました。2011年9月の訪問時には、住民一人ひとりが東日本大震災の被災者へのメッセージを書いたタペストリーを託してくれ、学生が被災地に届けました。ジャワ島もとても地震の多いところです。離れていても、国が違っても、こうして人と人は支えあいや痛みを通してつながっています。