中国四川省地震救援ニュース 94

被災地である北川県香泉郷には約7900人の人々が暮らしている。郷内12の村のうち、6つは無医村であり、一人の医者が約1000人~1500人の人々の健康を支えている。医者のいない村は、隣の村や郷の大きな病院へと自力で行かざるを得ない。
この地震によって郷内の7か所の診療所のうち2か所は全壊、その他も半壊、一部損壊などの被害を受けた。地震から1年が経とうとしている今も仮設テントで診療している医師もいる。
先日、郷のある村でP医師とお話をしている時に急病人が出たという知らせが入った。医師が呼ばれて僕もその後をついて行った。意識もなく過呼吸状態であるその男性高齢者を診たP医師は、自分の手には負えない危険な状態と判断し、この日たまたま居合わせた日本の元看護師Kさんも脳梗塞の疑いがあるとして「このままにしておくと最悪、死に至る。助かっても半身不随の状態にもなりかねない。」と言って至急、郷の大きな病院に搬送するようにすすめた。
だが、家族は出稼ぎ先の長兄と電話で相談した結果、病院には連れて行かず、このままの状態にしておくと言う。僕は耳を疑った。家族を見捨てるなんて。。。その家族が言うには、まず、救急車を呼ぶにもお金がかかる。そしてその後、助かったとしてもリハビリや入院などの医療費にお金がかかるという理由からこのように決断したそうだ。僕たちやP医師が無理やり病院に連れていったところで結局は家族の負担になると思うと無理じいする事は出来なかった。P医師も複雑な表情をしていた。日本的には、「とりあえず入院させて、お金は後で何とかなる」と考えるかもしれないが、これが、四川の農村の「何ともならない現実」であった。震災はこのようなところにも影を落としている。
家族の一人のおばあちゃんが、「住宅再建ですでに数万元の借金をしているのよ。どこにお金があるのよ!」と訴えるように言った言葉が今も耳に残っている。後日、P医師からその男性が亡くなった事を聞いた。
診療所を併設する「総合活動センター」が出来ると公共の施設となって医療費が安くなるという。センターが農村の医療問題の解決の一つのきっかけになればと思う。