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青海省地震レポート38-災害を忘れない-

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青海省地震から3年
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2010年4月14日に発生した青海省地震(玉樹地震)から3年を迎える。

被災地では8か月の冬の間、閉ざされていた再建工事も再開したようだ。最
大の被災地、結古鎮には大規模かつ真新しいビル群が忽然と現れ、郊外
には整然と並んだ住宅群が建設されている。

CODEは、これまでに3度被災地を訪れ、現地のNGOや被災者の話に耳を
傾けてきた。その中で被災したチベット人たちにとって大切な家畜、ヤク
(チベット高原特有の毛の長い牛)に注目し、「ヤク銀行プロジェクト」を行う
ことになった。ヤク銀行とは、ヤクを被災者に提供し、飼育、繁殖してもらっ
た後、一部をバターやヨーグルト、現金などで返還してもらい、その資金を
使って次の被災者にヤクを再び提供するというものである。

チベット人たちにとってこのヤクは非常に大切な家畜で、1頭1頭に名前を
付け、家族の一員として扱うほどであるという。また、彼らは、ヤクの事を
NOR(豊かさ)と呼び、所有しているヤクの数でその人の財産や豊かさを表
すそうだ。昔は結納にもヤクを贈る風習があったように、まさに大切な財産な
のである。

その豊かさの名の通り、ヤクは捨てるところのない貴重な動物で、田畑を耕
すだけでなく、その毛はロープや衣類に、皮はテントやカバン、財布に、角
は櫛などに加工される。また、その糞は暖炉の燃料となる。最終的にはヤク
の肉も食されるが、そのミルクからはバターやヨーグルトが作られ、自家消
費用だけでなく、寺院に喜捨する事でチベット人の心を支えている。このよ
うに万能の家畜が、ヤクなのである。

ヤクは本来、チベット高原の野生動物であったものを約3000年前頃よりチ
ベット人によって家畜化されたといわれる。通常、遊牧民はヤクを連れて、
夏場は5000mの高地まで上がりテントで暮らし、冬場は3000mくらいまで下
りてレンガの家屋で生活している。1年に3回から8回ほど牧草を求めて移動
を繰り返す。遊牧民とはいえ、牧畜の傍らチンクー麦(裸麦)を栽培する半
農半牧の生活をする人や毎年5月に「冬虫夏草」という漢方薬材の採取に
山へ出かける人々も多い。遊牧民でなくとも村で商売などを営むチベット人
も数頭のヤクや羊などを飼っている人も多い。

近年、チベット高原では草原の土壌劣化や砂漠化が起きている。その原因
は、温暖化や鼠が草の根ごと食べてしまう事などと言われるが、政府は遊牧
民の過放牧によるものという理由で定住化政策を推進している。それによっ
てヤクなどの家畜を手放さざるを得ない人々も増えている。この震災によっ
ても定住化に拍車がかかっている。だが、遊牧民たちは、草原の再生サイ
クルを考慮した上で移動し、放牧を行ってきたからこそ脈々と数千年を経た
今でも受け継がれて来たはずである。

このヤク銀行プロジェクトは、ただ単に被災住民に生業の糧としての家畜を
提供するだけではなく、チベット人のヤクとの暮らしを支える事でチベットの
自然、文化を支援する事にもつながっていく。
(吉椿雅道)