中国青海省地震レポート No.13

チベット人は、言わずと知れた敬虔な仏教徒である。チベット人でお経を読めない人はいないと言われるほどである。チベット自治区だけでなく、青海省、四川省、甘粛省、雲南省などの広範なチベットエリアには数多くのゴンパ(寺院)があるが、チベット人にとってラサ、西チベットのカイラス山などへの聖地巡礼が一生で最大の願いでもある。
以前、12月に雲南、四川からラサを経てネパールまでトラックなどをヒッチハイクして旅した事がある。その途中、東チベットのインドとの国境付近を走っていた時、トラックの車窓から何やら妙な動きをしているものが見えた。車が近づくにつれ、それが人である事が確認された。車が巻き上げる砂埃を気にも留める事もなく、合掌した両手を胸前から頭頂、眉間、喉、胸へと降ろし、その後両手、両膝を地面につけた後、額も地面につける。大地に身を投げ出すようにうつ伏せになり、再び立ち上がって、また同じ動きをする。これこそがあの「五体投地」であった。両手、両膝、額の五部を大地につけるチベット仏教独特の礼拝のやり方である。一度の動きで自分の身長ほどの距離しか前に進めない。尺取り虫のように大地に這いつくばって数千キロ先の聖地ラサを目指すのである。気の遠くなるほどの距離を何カ月も、何年もかけて野営しながら旅をする。命がけの信仰の旅である。
聖地ラサのジョカン(大昭寺)の正門前では連日巡礼者たちがこの五体投地で礼拝している。僕も見よう見真似でやってみたが、標高3800mのラサではかなり過酷であった。
チベットの冬(乾季)は、昼は強い紫外線に高山焼けで顔は真っ黒になるほどだが、日が暮れると途端に寒さが体を襲う。平均標高約4000mの荒涼とした大地はすべての水分を凝固するかのようである。ラサ手前の5000mの峠で車の故障でブルーシートの風除けだけの東屋に野宿した事があるが、あまりの寒さに寝れなかった。ようやくウトウトした頃、高山病対策のために常備している水筒の水がピキッ、ピキッと凍っていく音に再び目が覚めた事を思い出す。チベット人はそんな環境で五体投地の巡礼を敢行するのである。
環境に適応したチベット人のその強靭な肉体と精神力、そしてその深い信仰心には本当に感心させられる。五体投地はまさに己のすべてを大地に還すかのように仏への帰依を表しているように見えた。
そう言えば、その旅の出発地点の雲南の梅里雪山(6740m)の麓で出会ったチベット人達は、玉樹から巡礼に来た人たちだった。あの人懐っこい人々がこの地震で無事である事をただ祈るのみである。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)