【チリ-高知 被災地交流レポート No.2】

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チリ-高知 被災地交流レポート No.2
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「犠牲者ゼロの町、黒潮町」
 2010年のチリ地震・津波後から今も被災地で活動を続けているNGO、ICA(文化
事業協会)チリの代表理事のイザベルさんと南海トラフ巨大地震で大きな被害が
懸念されている高知県を訪れた。
 最大34mの津波が想定されている黒潮町では、住民の中に2つの「あきらめ」は
あると職員Tさんは言う。「避難することをあきらめる」、「町をあきらめる」という「あき
らめムード」を払しょくしようと大西町長を筆頭に職員一丸となって「犠牲者ゼロ」を
目標に、津波避難タワーや避難路整備などの防災対策が急ピッチに進んでいる。
黒潮町は、人口約12500人(約4600世帯)で65歳以上の高齢者の割合は37%に
上り、津波の被害想定では、住民の8割が浸水地域に住んでいるとされる。
 「戸別避難カルテ」では、全4800世帯を283の班に分け、より小さな地域で各世
帯に合った避難を考えるワークショップを行っている。地域の最小単位で避難の課
題を落とし込む事で「犠牲者ゼロ」の実現可能性を高めようとしている。これまでに
156か所で訓練やワークショップを行い、4634人が参加している。
 
 また、34mの津波をもじって「34ブランド」の缶詰の工場も建設し、「毎日食べたい
非常食」の開発も行っている。地域の雇用創出を兼ね備える事で息の長い防災対
策を試みている。
 これらの取り組みを知ったチリのイザベルさんは、チリ地震の際に政府の情報が
住民に正確に伝わらなかった事から戸別避難カルテなど行政から住民への情報
伝達に非常に興味を持たれていた。また、地震・津波の多いチリでは、住民が
培ってきた経験や文化が情報伝達においても重要な意味を持つとも語っていた。
黒潮町の缶詰を見たイザベルさんは、「チリでも震災後に仕事を失くした漁師や女
性たちがいる」と、震災前から雇用創出を行っている事に感動していた。イザベル
さんは、「この黒潮町で見聞きしたものをチリに持ち帰り、復興やその後の防災に
役立てたい」と語っていた。
 そして案内していただいた黒潮町のTさんも「イザベルさんが高知で学んだ事を
良き未来につなげてほしい。このご縁を大事にしたい」と語ってくれた。災害を通じ
て国を超えて人と人がつながっていく事の意味深さをあらためて感じた。
(吉椿雅道)