被災地、玉樹の特産品は漢方薬材の「冬虫夏草」である。レポート12でもお知らせしたようにチベット全体の現金収入の約40%を占めるほど、チベット人の生活には欠かせないものの1つである。
1年うち5月から6月の約40日のみが採集期であり、震災後から被災者のチベット人たちは、テントでの避難生活を送って来たが、多くの被災者が山を目指す。
僕らが玉樹を訪れた6月初めは、まさしく採集の最適期であったため最大の避難キャンプでもそれほど多くの被災者の顔を見なかった。確かにキャンプにいるのは、高齢者や幼い子ども達が多かったように思う。「家族は皆、虫草(冬虫夏草)を採りに山に行っている。6月末まで帰って来ないよ。」、「今は皆、山に行っているからいいけど、帰って来たらテントに寝る場所がない。」という声をよく聞いた。また、結古鎮の路上では、あちらこちらで臨時の市が立つ。虫草を採って来た遊牧民やバイヤーとの間で形、大きさ、鮮度などの品定めが行われ、売買される。
玉樹のチベット人は、だいたい7歳ぐらいになると親に連れられて虫草を採りに山に入るという。簡易なテントとツァンパ(麦焦がし)などの食料のみの装備だけの採集の旅である。6月といえど標高4500から5000m近いところでは雪は降り積もり、時に死者も出るという。だが、この40日間で1年分の収入を稼ぐために家族総出で山に這いつくばって必死に虫草を探す。きっとここで子は親から山での生きる智恵を伝授されるのであろう。そしてチベット人という誇りも身につけていくのだろう。虫草の採集のために子ども達は毎年、この時期が学校の休みになっているという。チベット特有の暮らしを大切にした生活のありようがうかがえる。このようにチベットの自然、暮らしに寄り添った復興が切に望まれる。