中国青海省地震レポート No.12

チベットの自給自足の暮らしでは、レポート9でも書いた「ヤク」は遊牧に欠かせない。そしてもう一つ欠かせないものに「冬虫夏草」の採集がある。
「冬虫夏草」という言葉を聞いた事のない方も多いかもしれないが、キノコの一種(虫草菌)で冬の間に蛾の幼虫に寄生して栄養分を摂取して、夏になると菌糸が棒状に発芽するさまが草のようである事からその名がついた。世界に約400種があると言われるが、標高3000~4000のチベット高原に自生するものが良質であるという。例年5月から6月にかけての約40日間が採集時期で、チベットの人々は雪の残る中、野営しながら冬虫夏草を探して歩くという。
中国医学(中医)、チベット医学(蔵医)などの伝統医療では、この「冬虫夏草」は滋養強壮、腎、肺、心の治療にも使われる生薬である。抗がん作用もあると言われ、副作用の少ない事から非常に重宝されている。2003年に中国を震撼させたSARSの際もその肺への効果から価格が高騰したという。
冬虫夏草は、チベットやネパールなどのチベット人の住むエリアではそれほど高価なものではないが、中国はもちろん、香港、台湾、シンガポールなどの中華圏にその需要は高く、生薬としてだけでなく、薬膳料理などにも使われる為に高価なものへと変わっていく。
1980年代以降の経済自由化によってこの冬虫夏草の価格は上昇し、チベットの人々にとって貴重な現金収入源となっていく。チベット全体の現金収入の約40%を占めるという。
高価に取引される事によってこれまでの遊牧から採集へと生活の比重も変化してきている。
実は、被災地、玉樹は「冬虫夏草の故郷」とも呼ばれる。地震の起きた日も多くの人々が採集のために野に出ていたという話もある。
採集の規制やその栽培の難しさなどの問題はあるが、玉樹の経済復興においてこの「冬虫夏草」も大事な存在になるだろう。

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